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福岡高等裁判所 昭和35年(う)1508号 判決

被告人 三浦一男

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件記録並びに原判決によると、原判決は被告人を原判示第一の罪即ちスクーターの横領の罪につき懲役二月、原判示第二の罪即ち第二の(一)のビール五本等の詐欺、第二の(二)のテープレコーダーの横領第二の(三)の指輪及び腕時計の詐欺の罪につき懲役一〇月に各処し、未決勾留日数中六〇日を右第一の刑に算入したこと、検察官は昭和三五年九月二日指輪及び腕時計の詐欺事実(原判示第二の(三)の事実)につき大分地方裁判所に公訴を提起し、次いで同月二七日ビール五本等の詐欺の事実(原判示第二の(一)の事実)及びテープレコーダーの横領の事実(原判示第二の(二)の事実)につき同裁判所に公訴を提起し、更に同年一〇月五日スクーターの横領の事実(原判示第一の事実)につき同裁判所に公訴を提起し、同裁判所は先づ同年九月二九日に同月二日附起訴の事実(原判示第二の(三)の事実)と同月二七日附起訴の事実(原判示第二の(一)(二)の事実)を併合して審理する旨の決定をなし、更に同年一〇月七日右事実と同月五日附起訴の事実(原判示第一の事実)とを併合して審理する旨の決定をなし併合審理を遂げ、同年一一月八日右各事実全部を有罪と認め刑法第四五条後段の併合罪の関係があつたため前記のような判決をなしたこと及び被告人は昭和三五年九月二日の第一次の公訴提起前の同年八月二六日大分地方裁判所裁判官山口繁の発した勾留状により勾留されその後右勾留は更新されて原判決の宣告の日にまで及んだのであるが、右勾留状は指輪及び腕時計の詐欺の事実(原判示第二の(三)の事実)について発せられたものであり、爾余の各公訴事実(原判示第一、第二の(一)(二)の事実)については勾留状は発せられていなかつたものであることは所論のとおりである。

検察官の主張するところは、右の場合原判決が勾留状の発せられていない原判示第一の事実の罪の刑に原判示第二の(三)の事実につき発せられた勾留状による未決勾留日数を算入したのは刑法第二一条の解釈、適用を誤つたものであり、仮りに右の場合併合審理の関係上原判示第一の事実の罪の刑に算入しうるとしても、原判示第一の事実と原判示第二の(三)の事実につき併合審理の決定がなされた昭和三五年一〇月七日以降の未決勾留日数に限るべきものと解すべきであり、同日以降原判決言渡日である同年一一月八日の前日迄の未決勾留日数は三二日にすぎないのであるから、之を超過して六〇日を算入した原判決は未決勾留日数の算定を誤り、ひいては刑法第二一条の解釈適用を誤つた違法があるというに帰する。

よつて按ずるに、同一被告人に対する数個の被疑事実につき数個の公訴が提起され、そのうち一つの公訴事実についてのみ勾留されている場合に、右数個の公訴事実が併合して審理される場合には、一つの公訴事実による適法な勾留の効果が被告人の身柄につき他の公訴事実についても及ぶことは当然である。同一被告人に対する刑法第四五条後段の併合罪の関係があるため二個の主刑の言渡をする関係にある数個の公訴事実を併合審理し二個の主刑を言渡す場合には、一つの公訴事実による適法な勾留日数は、勾留状の発布されていない他の公訴事実の勾留日数として計算でき、此の公訴事実に対する罪の刑に算入しうるものと解すべきであり、(昭和二八年(あ)第五〇四七号同三〇年一二月二六日第三小法廷判決参照)このことは一つの公訴事実についてなされている勾留が、併合審理の決定により勾留されていない他の公訴事実についても勾留の効果が生ずるために許されるのではなく、併合審理の決定により一つの訴訟手続になつたため一つの公訴事実についての適法な勾留の効果がそのまま被告人の身柄につき他の公訴事実にも及ぶがために許されるものであるから、前記の算入も併合審理の決定がなされた後の未決勾留日数に限るべきではなく一つの公訴事実につきなされた未決勾留日数全部につき算入しうるものと解するのが相当である。従つて本件において、原判決が原判示第二の(三)の事実につき発布された勾留状の執行により生じた未決勾留日数中六〇日を、之とともに併合して審理された勾留状の発布されていない原判示第一の事実の罪の刑に算入する旨言渡したことをもつて所論のような違法があるものということはできない。論旨は採用し得ない。

よつて刑事訴訟法第三九六条により本件控訴を棄却し、主文のとおり判決する。

(裁判官 相島一之 大曲壮次郎 古賀俊郎)

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